葛城王朝の栄枯盛衰


葛城の価値
 金剛山の麓、葛城古道の風の森を歩くとすぐに志那都比古神社高鴨神社に行き当たる。 ここから南は紀ノ川の上流にあたり、紀伊、瀬戸内への道筋である。
  また、北南には遮るものがないので名の如く風のよく吹く地域である。自然の風を利用する初期の製鉄の場所としてはうってつけであったろう。
 また穏やかな田園風景でもある。高鴨神社を南に行くと西佐味で大川杉が目に入る。大川神社であるが、杉の大木であり、古代のままの祭祀の場所である。
 一方、東は吉野、宇陀には山間をぬって往来ができる。
 北は葛城山の麓の平野が広がる。北東へ目を転じると畝傍山が見える。その向こうにうっすらと三輪山が見えてくる。
 よい山間の拠点であり、大和平野からは攻撃しにくい地域である。背後に補給路として紀の川が流れ、国中の邪馬台国に対立する狗奴国の先頭基地としては申し分のない場所である。

 この地に立つと、葛城王朝を感じる事ができる。

 生駒平群地域も、同様の拠点であり、長髄彦に手こずったのもうなずける。後世、蘇我氏一族が、葛城、平群、紀伊を押さえてたのは、戦略上の配慮である。一方、平地好きな物部氏は二度にわたってこの一族に敗北した。葛城王朝と蘇我氏にである。

高木の神
 高木の神は金剛・葛城の神でもある。金剛山は高天山と呼ばれていた。この山の中腹に、古社である高天彦神社が鎮座し、高皇産霊神を祀っている。この社の背後に神籬山がある。 この神は遠い古代に日本に渡ってきた神である。その記憶は対馬の高御魂神社にその御神体がうつほ船に乗って漂着した霊石であるとの伝承が残っている。九州では筑紫、豊の国に今でも多く祀られている。

 葛城は[高]を付けるのが好きな地域である。多くの神々の名に[高]がついている。高木の神の木の神の葛城風の呼び方と言えよう。

 木の神、それは素盞嗚尊の御子神とされる五十猛命も木の神である。 それも紀の国を本貫とする神で伊太祁曽神社の御祭神であるが高木の神と同様に対馬壱岐に足跡の多い神である。また五十猛命を[いそのたける]と読めば安曇氏の祖神磯武良も[いそのたけら]と読め、この二つの名は酷似しており、この神を祀る和多都美神社の社前の渚に[磯良エベス]と称する霊石の原初の神体があるのも、高木の神との深いつながりをも思わせる。
 五十猛命は[いそのたける]で[いそ]は磯すなわち渚である。渚の建、この神はまた、神武天皇の父神の天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命にも通じる。

 また、和歌山市の射矢止神社の伝えに、五十猛命、天香山命、一言主命が共に天降ったとある。一言主命も有力な葛城の神になっている事、天香山命は高倉下であり、葛城の高尾張の祖神として葛城王朝創建に貢献している。
 葛城王朝の遠い祖先は対馬、九州地域から、瀬戸内海を通り、大和葛城にたどり着いたのであろう。この記憶が神武東遷の物語として再生したのであろう。

神武東遷
 生駒山の北部に饒速日山がある。虚空見つ日本国(そらみつやまとのくに)すなわち邪馬台国を建国した神の聖地である。 東遷した部族の長(五瀬命、神武天皇)はこの聖地を押さえる事で一挙に大和を手に入れ、部族の安住の地を求めようとしたのである。しかし、飛火で通報を受けた長髄彦は山上から攻撃を加え、東遷部隊を一蹴したのである。

紀の国の征圧、葛城へ
 破れて傷ついた東遷軍はやむなく南下し、五瀬命を竈山に葬り、名草戸畔丹敷戸畔の支配する紀の国を征圧し、紀ノ川を押さえた。 紀の国名草を征圧した神は名草の建と呼ばれた。渚の建であり、鵜葺草葺不合命である。この神を五十猛命として祀ったのではとの推測も成り立ちうる。

 紀の国から大和金剛葛城へは紀の川をさかのぼればすぐである。東遷部隊はついに大和攻略の戦略拠点を手に入れた。

葛城周辺から吉野宇陀へ
 大王の婚姻から支配していった氏族、地域を推測する。

 @神武天皇、A綏靖天皇、B安寧天皇の三代の妃は鴨氏の娘である。鴨氏の神は事代主命であり、一言主命とも同一視される事がある。

 C懿徳天皇、D孝昭天皇の代に高尾張氏を支配下にいれた。D孝昭天皇は高尾張氏の瀛津世襲命の妹の世襲足命を妃にしている。この代で金剛葛城一帯を制覇したのである。

 E孝安天皇の子のF孝霊天皇は磯城の細媛を妃に迎えている。吉野、宇陀を征し、兄磯城を滅ぼしたのである。物部氏の一角を崩したのである。また宇陀は金属を産し、これで耕作と武力を飛躍的に伸ばしたのである。

 F孝霊天皇は国中に進出、物部氏を征したのである。邪馬台国はここに初期大和王権に替わった。大和、河内、吉備を支配下に入れるべく、王子を派遣している。

 G孝元天皇は山城、丹波を征した。美少女であった物部氏の伊香色謎命を手に入れたのである。
 物部氏の血を受けたH開化天皇が即位、物部王朝の復活がなった。先代が手に入れた伊香色謎命を妃にした。

 I崇神天皇を祭神としている神社は多くはないが、筑後に多い。筑後生葉(福岡県浮羽郡吉井町)の金刀比羅神社や筑後三瀦(福岡県大川市大字小保)の琴平神社が代表的な存在である。崇神帝はこの付近の出身と推測できよう。

 物部氏に取り返された王権を奪回するべく鴨氏物部氏が一触即発の危機を迎えたが、九州で有数の豪族になっていた水沼君を天皇として迎える事で折り合いを付けることとなった。後世の継体天皇の先例である。鴨氏の縁につながる王であったのであろう。
 なお、この王朝は、後世に新たな王朝の始まりと認識されたのである。
 しかし、承伏できない開化天皇につながる一族の間から散発的に皇位奪還の企てが起こっている。


葛城王朝の栄枯盛衰−表  媛の名でこの色は大王の妃


葛城王朝

鴨氏

葛木氏

高尾張氏

物部氏系

周辺国

征圧氏族、地域

神社と祭神

鴨都波神社
「事代主命」
葛木坐一言主神社
「葛城一言主大神」

高天彦神社
「高皇産霊神」

葛木坐火雷神社
「火雷神」

恩智神社
「大御食津彦命」
「大御食津姫命」

 

 

鵜葺草葺不合命

事代主命

 

@火明命

@饒速日命

 

紀伊

@神武天皇

事代主命の大女
媛蹈鞴五十鈴媛

葛木土神劔根

赤銅八十梟帥
A天香山命

長髄彦
A宇麻志麻治命

紀伊
名草戸畔
丹敷戸畔
天道根命

鴨氏

A綏靖天皇

事代主命の少女
五十鈴依媛

 

 

 

 

鴨氏

B安寧天皇

鴨王の女
事代主命の孫
渟名底仲媛

 

B天忍人命

B味饒田命

 

鴨氏

C懿徳天皇

 

 

 

 

 

尾張氏

D孝昭天皇

 

 

C瀛津世襲命妹
世襲足命

C大木食命

 

 

E孝安天皇

八咫烏

 

 

 

 

兄磯城、吉野、宇陀

F孝霊天皇

 

 

磯城の県主大目の娘
細媛

 

 

物部氏
邪馬台国
大和、河内、吉備

G孝元天皇

 

 

D建箇草命

D鬱色雄命の妹
鬱色謎命
河内の青玉繋の娘
埴安媛
大綜麻杵命の娘
伊香色謎命
E武建大尼命

丹波
大県主
由碁理の娘
竹野比売

山城、丹波

H開化天皇

 

孝元天皇の子
@彦太忍信命を祖とする

 

大綜麻杵命の娘
伊香色謎命
和珥氏のおけつ媛
F建胆心大彌命

 

葛城王朝弱化
物部王朝復活

I崇神天皇

 

 

F建諸隅命の妹
大海姫

G物部武諸隅命

紀伊
荒河戸畔の娘
遠津年魚眼眼妙媛

物部王朝弱化
葛城王朝復活

開化天皇の弟
武埴安彦

K垂仁天皇

 

A屋主忍男武雄心命
B武内宿禰

 

 

丹波
丹波道主の子
日葉酢媛

紀伊
屋主忍男武雄心命を派遣
宇豆比古の娘
山下日影日売を娶る
武内宿禰誕生

開化天皇の孫
狭穂彦王




葛城古道の神々


尾張氏の神
忍海 葛木坐火雷神社「火雷大神、笛吹神社の合祀で天香山命」葛城市新庄町笛吹448

鴨族の神
葛上 高鴨神社「阿治須岐託彦根神」 御所市鴨神1110
葛上 鴨都波神社「積羽八重事代主命、下照姫命」御所市宮前町掖上
葛上 葛木御歳神社「御歳神」御所市東持田69
葛上 志那都比古神社(風の森)「級長津彦命」御所市風の森
葛上 大川神社「高おかみ神」御所市西佐味
葛上 長柄神社「下照姫命」御所市名柄字宮
葛上 葛木水分神社「天水分神」御所市関屋248
葛上 葛木天神社「国常立命」御所市櫛羅
葛上 鴨山口神社「大山祇命」御所市櫛羅2428
葛上 巨勢山口神社「伊弉諾尊、伊弉冉尊」御所市古瀬303

葛城族の神
葛上 高天彦神社「高皇産霊神」御所市北窪158

一言主神
葛上 葛木坐一言主神社「葛城一言主大神」御所市森脇432





崇神天皇を祀る神社一覧
出羽(羽後) 秋田 十二所神明社「天照大神 配 天之御中主神、大名持神、應神天皇、高皇産靈神、水分神、大山祇命、健御名方神、崇神天皇 他」秋田県大館市十二所字元館107
出羽(羽後) 秋田 金刀比羅神社「大物主神、崇神天皇」秋田市土崎港中央6丁目1―
出羽(羽後) 由利 薬師神社「大己貴神、少彦名神 合 天照皇大神、甕速日神、饒速日神、經津主神、武甕槌神、市杵嶋姫神、保食神、崇神天皇、倉稻魂神」秋田県由利郡仁賀保町三森字御堂森1
出羽(羽後) 仙北 金峰神社「安閑天皇、宇氣母智神 合 天照皇大神、譽田別命、武内宿禰命、加武呂命、菊理姫命、崇神天皇 ほか」 秋田県仙北郡田沢湖町梅沢字東田235
出羽(羽前) 置賜 浮島神社「武甕槌命、經津主命、御眞岐入彦命、市杵嶋姫命」山形県東置賜郡川西町大字時田字浮
出羽(羽前) 田川 熊野神社「崇神天皇」山形県東田川郡余目町大字槙島字五里塚72
出羽(羽前) 飽海 熊野神社「崇神天皇」山形県飽海郡松山町大字茗ケ沢字早坂261
上野 吾妻     三原神社「日本武尊 合 素盞嗚命、倉稻魂命、崇神天皇 ほか」群馬県吾妻郡嬬恋村三原1108
上野 群馬     倉賀野神社「大國魂神 配 御間城入彦五十瓊殖命 ほか」群馬県高崎市倉賀野町1263
美濃 可児     八幡神社「應神天皇、崇神天皇」岐阜県可児市久々利1017番地
美濃 可児     広見神社「雷神大神 合 日本武尊、建速須佐之男命、天照大神、大山祇神、大物主神、崇神天皇 ほか」岐阜県可児市広見1026番地
伊勢 桑名     八幡社摂社崇神社「配 崇神天皇」 三重県桑名郡長島町大字西外面2407
伊勢 安濃     阿由多神社「阿由太神 合 崇神天皇 ほか」三重県安芸郡安濃町大字安濃1556
伊勢 三重     采女八幡社「品陀和氣命、崇神天皇 ほか」三重県四日市市采女町2321-1
備前 津高     吉備津彦神社「天御中主大神、大吉備津日子大神 ほか 配 吉備津彦命、孝靈天皇、孝元天皇、開化天皇、崇神天皇 ほか」岡山市一宮1043
備前 邑久     靭負神社「天目一神 配 天忍日命、御眞木入日子印仁惠命 ほか」岡山県邑久郡長船町長船1151
筑前 志摩     四所神社摂社事平神社「大己貴命、崇神天皇」福岡市西区今津字宇崎139
筑前 志摩     桜井神社摂社金比羅神社「崇神天皇」福岡県糸島郡志摩町大字桜井4227
豊前 上毛     沓川神社「加茂別雷神 ほか 合 大物主神、崇神天皇 ほか」福岡県豊前市大字沓川232
豊前 上毛     三社神社「天照皇大御神 ほか 合 崇神天皇 ほか」福岡県築上郡大平村大字西友枝3264
豊前 田川     須佐社「須佐嗚男命、菅原道眞、崇神天皇」福岡県田川市大字伊加利947
筑後 生葉     金刀比羅神社「崇神天皇」福岡県浮羽郡吉井町大字屋部530-3
筑後 上妻     中間神社「崇神天皇、菅原道眞」福岡県八女郡矢部村大字北矢部1008
筑後 三瀦     琴平神社「大物主神、金山彦神、崇神天皇」大川市大字小保字中ノ船津16
筑後 三池     十王神社「神武天皇から崇神天皇まで」福岡県高田町大字下楠田2478
肥前 彼杵     琴平神社「大物主命、崇神天皇」長崎県東彼杵郡波佐見町岳辺田郷11
肥前 松浦     榎津神社摂社琴平神社「大物主大神 配 崇神天皇、海童大神」長崎県南松浦郡新魚目町榎津郷185-1
肥後 益城     津森神宮「神日本磐余彦尊 ほか 配 崇神天皇 ほか」熊本県上益城郡益城町寺中706
豊後 大野     甲峯社「國常立命 配 崇神天皇 ほか」大分県大野郡大野町大字杉園88番地
豊後 大野     上山神社「猿田彦命 合 崇神天皇 ほか」大分県大野郡大野町大字安藤484番
日向 諸県     川上神社「淀姫命 合 崇神天皇 ほか」宮崎県東諸県郡国富町大字八代南俣2087
薩摩 日置     御霊神社「吉備大神、崇神天皇 ほか」鹿児島県日置郡市来町大里3267
薩摩 薩摩     若宮神社「崇神天皇、仁徳天皇 ほか」鹿児島県川内市永利町1183


参考文献 神々と天皇の間「鳥越憲三郎」朝日新聞社、神社庁発行平成祀りデータCD


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