万葉集巻第三紀の国

雑歌くさぐさのうた

長忌寸意吉麻呂が歌一首
 265 苦毛 零来雨可 神之埼 狭野乃渡尓 家裳不有國
苦しくも降り来る雨か神かみの崎狭野の渡りに家もあらなくに
えらいずつない旅や、ほいてがいなあめふっちゃーら、三輪の崎や狭野の渡しに人らおらへんがな
 

丹比真人笠麻呂が、紀伊国に往き、勢[せ]の山を超ゆる時よめる歌一首
 285 栲領巾乃 懸巻欲寸 妹名乎 此勢能山尓 懸者奈何将有
栲領巾たくひれの懸けまく欲しき妹の名をこの勢の山に懸けばいかにあらむ
呼んでみたなるよめはんの名前、この勢の山につけちゃろか
 

春日蔵首老[かすがのくらびとおゆ]が即ち和ふる歌一首
 286 宜奈倍 吾背乃君之 負来尓之 此勢能山乎 妹者不喚
よろしなべ吾が背の君が負ひ来にしこの勢の山を妹とは呼ばじ
あがのうちの人の名せったらって来た勢の山を、嫁はんとはよばんやろが
 

小田事主[をだのことぬし]が勢の山の歌一首
 291 真木葉乃 之奈布勢能山 之波受而 吾超去者 木葉知家武
真木の葉のしなふ勢の山偲はずて吾あが越え行けば木の葉知りけむ
檜のはぁ、がいにぶらくってる勢の山を、知らんまにすぎてもた、木のはぁよ、こらえっちゃてよう
 

辨基[べむき]が歌一首
 298 亦打山 暮越行而 廬前乃 角太川原尓 獨可毛将宿
真土山夕越え行きて廬前いほさきの角太川原すみだがはらに独りかも寝む
日暮れにょ真土山を越えたわいしょ、ほいで廬前のすみらの川原で、一人で寝ねんのよ、しょーもな、にえこむわ
紀ノ川沿い 橋本市隅田町隅田八幡神社
 

博通法師[はくつうほうし]が紀伊国に往きて三穂の石室[いはや]を見てよめる歌三首
 307 皮為酢寸 久米能若子我 伊座家牟 三穂乃石室者 雖見不飽鴨
はた薄すすき久米の若子わくごが座いましけむ三穂の石室は荒れにけるかも
久米の若さんあったとこよ、あの三穂の石室はほらくってわえやいしょ
 

 308 常磐成 石室者今毛 安里家礼騰 住家類人曽 常無里家留
常磐なす石室は今も在りけれど住みける人そ常なかりける
いっこもかわらん石室は今もあらいしょ、そやけど住んでた人は今はあらへん
 

 309 石室戸尓 立在松樹 汝乎見者 昔人乎 相見如之
石室戸いはやとに立てる松の樹汝を見れば昔の人を相見るごとし
石室の戸口の松の木ぃよ、おまん見てたら、昔のお人にあうたようやんか
 

挽歌かなしみのうた

和銅四年[よとせといふとし]辛亥[かのとゐ]、河邊宮人見姫島松原美人屍哀動作歌四首(題目混乱と思われる。)
 434 加座ハ夜能 美保乃浦廻之 白管仕 見十方不怜 無人念者
風早かざはやの美保の浦廻うらみの白躑躅しらつつじ見れども寂さぶし亡き人思へば
風早の美保の浜べの白いつつじを見てるさかい、死んだめんたおもぉ出してさみしいやん
 

 435 見津見津四 久米能若子我 伊觸家武 礒之草根乃 干巻惜裳
みつみつし久米の若子わかごがい触ふりけむ磯の草根の枯れまく惜しも
あの勇ましい久米の家の若さんがいろた磯辺の草、枯れちゃらいしょ、もったいな
 

万葉集巻第四紀の国

万葉集紀の国

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