紀の国の民話・昔話・伝承 神々編 有田、日高




矢之助杉


 昔、三十木矢之助という男が金に困って上阿田木神社の杉の大木を伐って売ろうとしたが、あまりにも大きすぎて一日では伐り倒すことができない。 夕方作業を止め翌朝来てみると切り口はきれいにふさがっている。 翌日も翌々日も同様である。 そこで人夫の数を増やし一日で伐り倒したところ、切り口から二本の芽がふき出し二叉の大木になったという。美山村にあり。
関連する神社 上阿田木神社「伊弉冉尊、伊弉諾尊」日高郡美山村初湯川212



おぼり石


 美浜町吉原の松原王子神社にあり。 昔、雷がこの地に落ちた時、この社の神様がこの石で雷を押さえつけたという。 また、津波や天変地異の際には、この石がしきりにおぼる(うなる)という。
関連する神社 吉原王子、松原王子神社



今宮社前の大石


 今宮社(御坊市藤田町藤井)の前に大きな石があった。 ある時、この傍らへ雷が落ちて乱暴したので今宮社の祭神がこれを捕らえて「この石が腐って無くなるまでこの里には落ちない」と誓わせて放免してやったといい、それ以後この地には落雷したことがないといわれている。



要石


 鹿島明神が鹿島(南部町)に遷ってきた時、始めて座した石という。
関連する神社 鹿島神社「武甕槌大神」日高郡南部町植田20




あみだ礁


 海中に亀の形をした岩があり、昔、竜王さんがこの岩に乗って出現したといわれる。 この辺りでは魚貝をとることを禁じていたが、ある時、殿様が竜王神社で観潮の宴を張った際、鮑が食べたくなり、下男にとつてこさせて食っていると、にわかに海に妖気がたちこめ雷雨まじりの烈風が吹きだした。 驚いた殿様は家来にいいつけてこの下男を生贅として海へ突き落としてしまった。 その後、殿様は夜毎に下男の夢を見てうなされるので、阿弥陀仏の像を海に沈めて冥福を祈ったという。 下男を突き落とした断崖ということで一名「下郎落とし」とも呼んでいる。
関連する神社 龍王神社「豐玉彦神、譽田別尊」日高郡美浜町三尾442-1



弁天島


 三尾に色の黒いい娘が住んでいた。なんとかして色白の美しい肌になりたいと思い毎日、御崎の神にお祈りしていたところ、ある夜、夢枕に神様が立ち三週間水ごりをとるようすすめた。 娘はお告げの通り海中に身をさらし一心に祈り続けたところ、満願の日にどこからともなく幾千羽のウミネコの群れが飛んできて、娘の上に真っ白な糞を落としていった。 すると、不思議なことに、あれほど黒かった娘の肌が真っ白に変わっていた。 娘はその後も毎月浜にきてウミネコの飛ぶのを眺め、自分が日増しに美しくなっていくのを楽しんでいた。 ところが、より美しくなりたいと思う娘の執念がこりかたまって、娘の姿は次第次第に変じ、ついに島になってしまった。 それが「弁天島」(一名「天鳥島」}だという。
関連する神社 御崎神社「雷大神ほか」日高郡美浜町和田1788-1



河津の滝の大蛇


 河津の滝壷に住んでいる大蛇が若者に化けて娘の家へ毎晩通い、娘は妊娠した。 娘は母親にその相手のことを問いつめられるが、風のように来て風のように帰って行く若者の名前も住所も知らない。 母親は若者の着物に針を刺し、翌朝その糸をたどって、その正体を知る。 滝壷に姿を現わした大蛇はこの地の守護神になってやるといったので社をつくりおまつりしたのが河津神社である。
清水町杉野原




犬を飼わない里


 日吉神社の猿を追い回すので、神様の使いである猿に申し訳ないと犬を飼うのを止めたという。
南部町堺



熊野の大蛇


 熊野に大蛇が現われて村人は困っていた。そのころ村に一人の武芸者が来ており、その男の計略で栗の木で大きな箱をつくり、屈強な若者数人がその中に身を潜めて大蛇の現われるのを待っていた。 夜明けとともに大蛇が近づいてきたので、若者たちは箱の中から手を伸ばし蛇の首を切り落したという。
関連する神社 熊野[いや]神社



今宮社と雷


 ある時、今宮社の前へ雷が落ちて乱暴をしたので、この社の祭神がこれをとらえ「この石がなくなるまでこの辺りへ落ちない」と誓わせて放免した。 その後、この辺りには雷が落ちないという。
御坊市藤田町



衣奈八幡宮


 神功皇后が半島からの帰途、風波の難にあって紀州の海岸に漂着した際の行宮跡で、応神天皇はその頃まだ赤児で武内宿禰に抱かれてこの地に上陸したという。 社前の傍にある瑞石は、天皇が御駐りの時、敷かれた石であるという。
関連の神社 稲荷神社 田辺市稲成町1124
関連の神社 衣奈八幡宮 日高郡由良町衣奈669



晴明様


 安倍晴明が転げ落ちたという川の中から拾い上げた異光を放つ石をまつったもので、「安倍晴明大明神」とされている。
龍神村殿原



太刀の宮


 大坂夏の陣の折、宮崎三郎右衛門定直という武士が徳川方の目をかすめて城を抜け出し、姉婿にあたる宮原荘の則岡勘解由左衛門を頼る途中、蕪坂にある祠の側でまどろんだ。 すると夢の中で、後を追ってきた徳川方に取りかこまれたが腰の刀がひとりでに抜けて柏手を次々に切り倒した。 ふと目がさめると、腰の刀は地上に落ち二つに折れていた。 驚いて拾い上げようとすると、刀は元の通りぴったりと継ぎ合わさった。 定直は、今の夢は正夢であったのに気付き、早速その刀を「折接丸」と名付け、その祠に奉納した。 その後、だれいうとなくこの祠を「太刀の官」と称するようになったという。
関連する神社 蕪坂王子と宮原神社



竜王様


 ある時、里人が泉の水を飲んでいる大蛇を見た。 大蛇は人間に姿を見られたのを憤り、頭に角を立て、ロから焔を噴き、鱗を逆立てて昇天した。 これを見た里人は、この地に竜王様をまつり、「水の神様」としてあがめることにした。
金屋町谷



姥滝様


昔、岩の硲に一人の老女が住んでいた。 食うに困り村人から食べ物をもらって日々をおくっていたが、ある日、村の若者が村のためとこの老女をうち殺してしまった。 老女の体から流れ出た血潮は滝に流れ込み、血の滝となった。 村人たちがこの霊魂を鎮めようとしてまつったのか姥滝様だといわれている。
金屋町修理川



丹生津比女命


 丹生津比女命が出雲へ旅立つ朝、寝すごしてしまい、あわてふためいて着物を木にひっかけて破り、土産を持って行くのを忘れたので、村人たちは大笑いしたという。 これが日本三大笑い集りの一つといわれる「江川の笑い祭」のはじまりといわれている。
関連する神社 丹生神社 日高郡川辺町江川1956



楠を忌む神


 紀道明神は楠樹がきらいだという。 それは祭神・紀道成が道成寺建立の時、船洋(中津村)から楠の大木を伐り出し、運ぷ途中、「御膝の淵」(川辺町三百瀬)で溺死したためという。
関連する神社 紀道神社 日高郡川辺町三百瀬1188




鹿島明神と地震


 鹿島の下に地震の神がいて、ともすればその暴威を振おうとするが、鹿島明神が上からこれを押さえつけているので、どうしても地震をおこすことができない。 また、鹿島明神がこの島に移ってきた時、はじめて座ったというのが海中にあり、「要石」と呼ばれている。
関連する神社 鹿島神社 日高郡南部町植田20




参考文献
 和歌山県史 原始・古代 和歌山県
 日本の民話紀の国篇(荊木淳己)燃焼社
 和歌山の研究5 方言民俗篇(和田 寛)清文堂

紀の国の民話・昔話・伝承ホーム

紀の国・和歌山にゆかりの人のページ

紀の国古代史街道

神奈備にようこそ

inserted by FC2 system