月神のお話

[1171] 月神のお話−1  神奈備 2005/04/23(Sat) 17:04 [Reply]
 地球と月の距離は38万qで、光は1秒で届く距離です。月は徐々に地球から遠ざかっており、10p/一ヶ月だそうです。
 人類が類人猿から分離したのが500万年前、月と地球の距離は今より近く98.4%で、たいして変わりはなさそうです。月が少し大きいので、日食も金環食は起こらなかったのかも。
 いずれにしろ人類が宇宙を目指そうと言う今日、多分人類の最盛期に、月と太陽の視野角が同じと言うことは大偶然でしょう。
 また惑星の衛星としての月は巨大すぎるのです。二連星にはならないのですが、あまりにも大きい。半径は25%、質量は1.25%。自然に出来たものか、火星と木星の間にあった惑星が壊れて小惑星帯になっていますが、その中の塊が太陽に落ちる最中に地球に補足されたのかも知れません。

 月の働きは地球に、人類に多くの影響を与えて来ました。
漁猟  月の潮汐、三日月は舟の形。
狩猟  弓張月
不死  満ち欠け
生まれ変わり 乳房と経血
雨   月に叢雲
霜   放射冷却

[1172] 月神のお話−2  神奈備 2005/04/25(Mon) 08:45 [Reply]
 狩猟、漁猟、木の実などの栽培・採取で生計をたてていたであろう縄文時代は、生活のリズムはおそらくは大きく月の影響下にあったものと思われます。

雨が降るのも月の機能と思われていたのでしょう。
 縄文中期の土器で中部高地(長野、山梨付近)から出土している顔面把手付深鉢や有孔鍔付土器の中には、蛙が壷にしがみついて、その蛙の背中から赤子が顔を出しているという出産のシーンが描かれているものがあります。この壷は月を表しているものと思われます。と、いうのは、月と蛙の組み合わせの民話は東南アジア、大陸などの多く残っており、その影響が残っていたと想像されるからです。
 蛙と月、どちらも三度変身するのです。卵、おたまじゃくし、蛙、こちらは新月、半月、満月。

 月と蛙のお話を簡単に。
 太陽と月は嫁を娶ろうと思っていました。月は人間の女を望み、太陽は人間の女は目を細めて自分を眺める。水中の蛙は円い目で自分を見る、だから蛙にしたいとなり、それぞれ天上へ連れてきました。所が蛙はまともなことは何もできません。ピョンピョンはねているだけでした。これを見ていた月は蛙をとことん馬鹿にしていました。怒った蛙は離れてやらないと月にしがみついてしまいました。

http://sutama.ed.jp/museum/doki/doki_iseki/shusandoki.html
http://www.kisoji.com/kisokoiki/tokusyu/tokusyu10.html
http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/museum/kouko/ko50-06.htm

[1174] 月神のお話−3  神奈備 2005/04/26(Tue) 16:11 [Reply]
 縄文中期の中部高地と云えば、御射口神、シャクジ神の信仰が既にあったのでしょう。縄文の塞の神で、時として石神の形で表現されていたのです。石神をしてシャクジンと訓めるのですが、シャクジであってジンではないのです。石神の音読ではないと、『石神問答』の中で、柳田国男翁も強調しているのです。
 縄文時代にその萌芽のあった月神信仰、月神の降臨はやはり石であったのでしょう。それが後の山城は大住の月読神社の神は神南備山頂の石に降りているようです。話は飛躍しますが、鹿児島神宮は石体宮を元社としているようで、根源にシャクジないしは月神への信仰があったのかも知れません。
 シャクジの神は宿神、左宮司、左久神、作神、社口、佐軍、三狐などと表記されます。ルールはS+K(G)と云うことです。顔面把手付深鉢は酒造り用の鉢だそうで、酒は古語ではササ、クシであり、サケと云う言葉があったのかどうかですが、神に捧げる酒、また海や川からの神の贈り物は鮭であり、これもSK、神々のたむろする所、境、坂、崎、宿、関、底、これらはいずれもS+K、縄文時代からの信仰、古層の信仰のキイワードがS+Kなのです。

[1175] 月神のお話−4  神奈備 2005/04/27(Wed) 08:28 [Reply]
 『日本書紀』(一書 第十一)に月夜見尊が保食神を殺す話がのっています。
 葦原中国の保食神のもとに行った月夜見尊は保食神が口から、米の飯、大小の魚、毛皮の動物を出したのを見て、汚らわしいことだと、保食神を撃ち殺した。
遺骸の頭は牛と馬、額は栗、眉は蚕、眼には稗、腹には稲、陰には麦、大豆、小豆が生じた。

 このお話は、南洋にある月娘ハイヌウエレの根茎栽培神話の焼き直しのようです。
ココ椰子から生まれた少女を祭りの日に殺して埋める。これを掘り起こしバラバラにして埋めると、体の各部はイモとなった。

 『古事記』では、素盞嗚尊が殺す役割を負うのですが、『日本書紀』では月夜見尊。月夜見尊の方が古い伝承のようですが、いずれも古層の神の仕業として記述されているのでしょう。素盞嗚尊も荒神としてはシャクジの神の流れを受け継いでいるのでしょう。

 南洋から薩摩の国に伝わり、オツキサー、オツキドンと月神を祀る石の祠があるそうです。話は後世に飛びますが、山城綴喜郡に月読神社が鎮座、大住と云う場所で、大住隼人が移住して勧請したとされています。

 山幸彦が竜宮の海神を訪ねて行き、潮満玉、潮涸玉を貰って帰るのですが、この二つの玉は月の機能そのものを発露させるもので、海神とは月神であったと言えます。日嗣ぎの御子が月神の娘を娶り、皇室の祖先となっているのです。
 薩摩には鹿児島神宮が鎮座、その元社は石体宮とされています。シャグジであるのか、月神であるのか、いずれにしても根源の神は古い縄文の息吹がながれているようです。

[1176] 月神のお話−5  神奈備 2005/04/28(Thu) 08:18 [Reply]
 大山祇神の娘に石長姫と木華咲耶姫がいました。石長姫とサクヤ姫、古層の神々を彷彿とさせる神名ではありませんか。木華は後から飾ったもので、物語として面白くしたものでしょう。サクヤ姫とカグヤ姫もまたどっかでつながっているのでしょう。塩土翁が目無籠を作りましたが、何となく、竹取の翁を連想させます。籠耶姫。

 隼人の入れ墨の風習は大伴氏にも残っており、信濃国佐久郡に大伴神社が鎮座しており、ここの祭神は月読神です。この辺りには古層の神々が集約されていそうです。

 『肥前国風土記』松浦の郡の条に値嘉の郷のことが記されています。
 海の中に島があって烟が沢山たなびいていた。阿曇連百足が見に行くと、島が八十余りもあって、二つの島に人がいた。近島と名付けた。土蜘蛛は降伏した。その島の白水郎は容貌が隼人に似ている。

 『筑前国風土記逸文』にも、近島が出てきます。志賀島のことです。安曇の本拠地で志賀海神社が鎮座。安曇磯良は安曇の祖。福岡県大川市の風浪神社に安曇磯良の木像があり、手には潮満玉、潮涸玉を持っています。安曇には白水郎、入れ墨と隼人系の伝承が色濃く残っており、南方系の人々だったのでしょう。
 
 山城国葛野郡の月読神社は壱岐島から勧請されてきのですが、壱岐の月神はやはり南から持ち込まれたもののようです。対馬は月神信仰よりはお天道さまの日神信仰が色濃い島であり、ここから壱岐に月神が持ち込まれたのではなさそうです。

[1177] 月神のお話−6(最終回)  神奈備 2005/04/29(Fri) 17:36 [Reply]
 神功皇后の征韓の舟の先導神は月神であり、高良玉垂神社の祭神となっているとのこと。日神を先導する月神。夜明け前の左弦の月はあたかも日神を先導しているように見えます。『記紀』には住吉大神が先導とあります。この住吉大神と安曇の大神とは塩土翁神を根底に持っていることから、これらの神々は古層の神々が新しい姿をとっったものと言えるでしょう。他に先導した神として、諏訪大神、安曇磯良神、『播磨国風土記』に登場する御舟前韓国伊太テ神なども古層の神を背負った月神の片鱗があるのでしょう。
 
 応神の皇子達は応神天皇からそれぞれの役割を与えられました。

古事記  大山守( 海山 )   大雀命(食国の補佐)   和紀郎子(天日継)
日本書紀 大山守(山川林野)   大雀命(太子の補佐)   和紀郎子(後継)

 三貴子もそれぞれ分担があります。
古事記  素盞嗚尊( 海原 )   月読神(夜の食国)   天照大神(高天原)
紀一書六 素盞嗚尊(天の下 )   月読神(滄海原 )   天照大神(高天原)
紀一書七 素盞嗚尊(滄海原 )   月読神(天の下 )   天照大神(高天原)

 大雀命と月読神、大山守と素盞嗚尊、和紀郎子は天照大神と対比されて描かれています。大山守は川で溺れ死ぬのですが、これは素盞嗚尊が雨の中を高天原を追われて降りてくるのに当たるのでしょう。和紀郎子は天上界へ旅立ちます。

 人皇第一代かも知れない大雀命(仁徳天皇)は月神の後裔だったのです。大雀命は黒比売をおいかけて吉備に行きます。吉備から分銅形の土製品が出土、これは銀杏葉形で眉月があり、死と再生が語られている縄文土器であり、月神の国であったのです。大雀命の皇后は葛城の石の比売であり、葛城と吉備の勢力をも見方につけた河内王朝の祖だったのでしょう。後の神としての石の比売、シャクジがここでも働いています。

 名前の交換のお話があります。武内宿禰の子が生まれる際、ミソサザイが産屋に飛び込み、大雀命が誕生の際にはミミズクが飛び込むのです。同じ日です。鳥の名前を交換して名をつけるのですが、元々は大雀命は木莵命とでも名乗るところだったのでしょう。ツク、月の命そのものです。
<終わり>

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